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麻酔はなぜ効くのか? 〈痛みの哲学〉臨床ノオト 外須美夫


 

 

手術と痛みに向き合う麻酔科医の臨床ノート、回顧録。前半は麻酔事故など手術に関わる具体的な事例が中心、後半に行くにしたがって、生命倫理や痛みの哲学に関する内容が中心となるユニークな構成の1冊。

 

ドクターX並みに様々な手術に関わるのが大学病院の麻酔科医。心臓や肺などの内臓の手術だけでなく、脳、眼、骨(整形外科)、出産時の帝王切開など。長年、麻酔科医をやっていれば様々なトラブルとも直面します。なんとか危機を乗り切ったケース、患者が亡くなってしまったケース。患者や家族の理解が得られたケース、得られなかったケース。警察沙汰になったケースなど。

 

事前に、この手術は危ないと思ったら拒否権を持つのが麻酔科医。(フリーランスの医師ではなくて大学教授なので、麻酔科医を代えて手術を強行みたいな話にはなりません。)微妙なグレーゾーンのケースでは、手術を諦めるように患者を誘導することも。

 

色々な手術が紹介されていますが、その中でも圧巻なのは脳外科の手術。麻酔をして頭蓋骨を切り開いた後、覚醒させて、意識のある状態で脳に刺激を与えて脳の切除する部位を決定する手術が紹介されています。

 

 

後半になると、腎臓や肝臓などの臓器を提供するドナー、事故で脊椎損傷になった人、ALS患者に対する麻酔と手術、輸血を拒否するエホバの証人の信者と言った、麻酔の技術的な話よりも、人間そのものに対して考えさせられるケースが登場します。そして東日本大震災の被災地訪問を挟んで、終盤では麻酔科医のもう一つのテーマ「痛み」について考えて行きます。痛みを徹底的に取り除こうとする態度は「自分の痛みには過剰に反応し、他者の痛みには鈍感な人々」を作り出すのではないかと危惧しています。麻薬の使い方によっては、そういう人々を増やす結果になるかもしれないと警告しています。森岡正博の「無痛文明論」を下敷きにした考察とのことですが、麻酔科医としての経験が独特のリアリティを与えているように思います。

 

麻酔はなぜ効くのか? 〈痛みの哲学〉臨床ノオト [ 外須美夫 ]