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ワクチン、予防接種の原型となる種痘(しゅとう)を開発したエドワード・ジェンナー。かつては小学校の教科書にも載っていて、非常に有名な存在でした。しかし天然痘が撲滅されて40年余りが経ち、一般の人々からは忘れ去られつつあります。そんなジェンナーの足跡を振り返る医学読み物。初版は1996年。2016年発行の増補復刻版では「第二部 幕末日本の蘭方医たち-天然痘との戦い-」を追加。(対象は小学校高学年以上、大人なら2時間程度で読めそう)
戦前、小学校の修身(現在の道徳)の教科書に掲載されていたジェンナー。当時の教科書には自分の息子を実験台にしたと書かれていました。しかし現在では誤りとされているとのこと。また種痘(牛痘種痘 ぎゅうとうしゅとう)を最初に試したのも、ジェンナーではなく、ジェンナーの真の功績は科学的に検証した点にあるということ。しかし、検証方法には、現代的な観点からは医療倫理上の問題があること。また、天然痘と牛痘は別の病気であり別のウイルスが原因。交差免疫という仕組みを使っていると言った医学的(免疫学的)な内容も、小学生向けに説明するのは難しい面があります。それ以前の問題として、人の膿(うみ)を移植して病気を予防すること自体、清潔な環境で育っている現代の子ども達には、抵抗があるかもしれません。
そんなわけで、偉人伝としては必ずしも小学生向きではなくなってしまいました。しかし医学史としては非常に読みやすく興味深い内容でした。ジェンナー以前に、天然痘患者から取った膿、かさぶたを植えつける方法は行われていたこと。しかし天然痘ではなくて牛痘の患者から取った膿を使うことで副作用を軽減できたこと。まさに予防接種の原点と言って良さそうです。
復刻版で追加された第二部では、幕末の蘭方医(西洋医)が、種痘を日本に広めることで天然痘の予防に貢献したことが紹介されています。漢方医に変わって蘭方医(西洋医)が認められるきっかけになりました。
医学史関連の本は難解なものが多いのですが、この本は最後まで興味深く楽しく読めました。