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ドラマや医療番組でお馴染みになったものの、普通の人には、あまり馴染みのない病理学。地域の図書館だと、病理学の本は1冊も置いてなかったり、難しすぎる本しかなかったりします。そんな中で、普通の人(文系の人)でも少し頑張れば読み通せる病理学の本です。社会人向けの市民講座、大学なら医療と直接関係ない文系の学生に対して行うような病理学講義です。(暴論とか極論を語る本ではありません。あまりないタイプの本なので、タイトルを付けるのに苦労したんだろうなという気がします。)
著者は内科医出身ですが、病理学研究者であって病理診断医ではないとのこと。(大阪大学医学部教授)臨床診断ではなくて、がんのメカニズムを研究しています。そのため、本の約半分は「がんの病理学」。治療法よりも、DNAとか細胞レベルでの理解を深める内容になっています。基礎的な内容で少し難しい気もしますが、普通の人でも分かるように丁寧に説明されています。
前半では、細胞と血液をとりあげています。前半部分は、いかにも病理学の講義という感じなので、雑談ありでも少し疲れました。(「がん」がテーマの後半の方が、個人的には読みやすかったです)
医学関連や理系の本には珍しく、広辞苑で基本用語を確認しながら説明しているのも特徴の一つです。病理学という単語をはじめ、生物学的な「組織」、医学用語の「ショック」、貧血の俗的な用法と正しい医学用語、「がん」の定義と広辞苑を引用しつつ、適宜説明を補足しています。
医学の歴史や病気に関連するエピソードも雑談として豊富に紹介されています。
その中でも驚いたエピソードを一つ紹介。
オーストラリアのタスマニア島に生息するタスマニアデビルには、喧嘩の時に出来た傷から感染してしまう「がん」が発生しているとのこと。これは人間では確認されていない「がん」で、もし発生しても蔓延する可能性は、ほぼ無いとのこと。しかし条件がそろえば、「がん」も、傷口から感染しうることを示しているそうです。
こちらは動物園での微笑ましい光景ですが。