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灘校・伝説の国語授業 橋本武


 

灘校・伝説の国語授業 本物の思考力が身につくスローリーディング (宝島sugoi文庫) [ 橋本武 ]

 

日本一の名門進学校として名高い灘校、その中学校で行われていた国語の授業の一部を当時、実際に授業を行っていた国語教師、橋本武が再現したもの。


 その内容は「銀の匙」という小説(文庫本)を中学3年間で、ゆっくりと読んで行くというもの。

 

中勘助の「銀の匙」が新聞小説として連載されていたのは明治45年から大正2年。伝説の授業が、このスタイルになったのは終戦直後のこと。開始当初は35年ほど前に書かれた小説を講読していたわけです。現代に置き換えれば、村上春樹とか村上龍の初期作品を、ゆっくり読んで行く感じでしょうか。長すぎず、それほどストーリー性が強くない(途中で脱線しても内容が理解しやすいため)、作品が高い評価を得ている、(プラス、過激な暴力表現や性的な描写が無い)と言う基準で考えれば、中学校の授業で村上春樹の「風の歌を聴け」あたりをじっくり読んでいたら、生徒から非常に好評で東大合格者も鰻登りのため、何十年も続いた授業という感じでしょうか。

 

銀の匙の授業が始まって70年以上が過ぎ、日本語も日本社会も大きく変化しました。今、この小説を読むと国語教育の分類上では現代文でも、古文の知識がないと理解が難しい小説になっています。個人的には、ある程度古文を学んでからテンポ良く読まないと面白さが伝わらない小説と言う気がします。また、寄り道と言いつつ、日本語概説とか古文の解説書に載っているような話をしている授業には私自身は不満を持ちそうです。自分の性格上、こういう先生って欺瞞的な感じがして冷めてしまいます。

 

とは言え、この授業が伝説になったのには、それなりの理由があるとは思います。ドキュメンタリー番組で東大異才発掘プロジェクトと言うのが紹介されていたことがありますが、この授業は灘校異才発掘プロジェクトのような役割を果たしたのではないかと思います。1つのテーマにじっくり取り組み、掘り下げる。ただし一人よがりにならないように、自分が取り組むテーマについて文章にまとめる習慣を身に付ける。(この授業では銀の匙の各章を200字ぴったりに要約する練習を繰り返したとのこと)こうしたことにより、受験だけで燃え尽きない「のびしろ」のある卒業生を多数輩出し、灘校の名声を不動のものにしたのかもしれません。

 

この本自体は読みやすく、中学、高校で国語を学んだ人なら短時間で読めそうです。

 

灘校・伝説の国語授業 本物の思考力が身につくスローリーディング (宝島sugoi文庫) [ 橋本武 ]