好きなことを知っている人は、しあわせ

好きなことを知れば幸せになれる。好きなことが分からないと幸せになるのは難しい    

貧困の克服  アマルティア・セン 集英社新書


 

 

アジア人初のノーベル経済学賞受賞者として名高いアマルティア・セン。彼の20年ほど前の講演を収録した講演集です。(アジア通貨危機の記憶が生々しい時期の講演)特に予備知識無しに、何となくタイトルに魅かれて読んで見たのですが、この本で述べられている「貧困克服の鍵」は意外なものでした。

 

貧困克服の鍵と言うと、冷静に考えてみることなしに、何となく勤勉に働くことと思い込んでいる、あるいは思い込まされているような気がします。そのため、この本で書かれている「二つの鍵」を、思い浮かべるのは容易ではないかもしれません。

 

一つ目の鍵は、冷静に論理的に考えれば分るはずなのに、日本では当たり前すぎて意識されにくいものです。

 

それは教育の普及です。日本や中国が急速に経済発展出来たのは経済成長以前に既に普通教育が普及していたから。インドの経済発展が遅れたのは、一部のエリート教育は充実したものの普通教育の普及が遅れたから。インドの中でも例外的に普通教育が普及して識字率が高かった地域は、早期に貧困を克服できた。


教育を受けた上で働くことが大切なわけです。

 

 

もう1つの鍵は意外なもので、20年経った今でも色々な考えがありそうなもの。

 

 

本書によると、それは民主主義とのこと。


貧困と言っても国全体が本当に貧しいということは普通はない。多数の餓死者が出るのは、問題を一部の人に押し付け、そのことに対する批判を黙殺するからである。貧しくても大規模な飢饉が起こらなかった独立後のインド。共産党政権の成立後に大量の餓死者を出した中国を対比しています。また通貨危機が起きた当時の韓国やインドネシアを、経済的な側面から見て民主主義が充分に機能していなかった国としています。


非常に大雑把に言うと、基礎教育は普及していたが民主主義が存在しない中国、基礎教育が普及する前に民主主義が始まったインドを対比しています。そして中国のほうが成長率が高いから優れているみたいな論調を批判しています。


 またアジアと欧米は違うから、アジアには欧米式の民主主義は不要と言った考え方を、合理的な根拠の無い考えとしています。

 

私自身は、こうしたタイプの思想には、ほとんど触れたことがなかったので、一部に難しい部分があったものの、素直に感心しながら読めました。

 

貧困の克服 アジア発展の鍵は何か (集英社新書) [ アマルティア・セン ]

ひふみんの将棋入門新装版 加藤一二三


 

 


将棋のルール、考え方の基本の基本、詰め将棋、ひふみんコラムという構成。将棋を全く知らない人向けと言うよりも、最近将棋を指してない人が短時間で復習するのに良い内容。(2013年刊行、「脳が活性化する!大人がもう一度始める将棋入門」の新装版)

 

この本の旧版が刊行されたのは、ひふみんこと加藤一二三九段がアウトデラックスにレギュラー出演してプチブレイクしたころ。ひふみんは引退後、本格的にブレイクして忙しいからか、前書きで藤井四段との対局にふれている以外は、ほぼ5年前の内容。2011年千葉幸生(ちばさちお)六段との39歳差対局、2012年森内名人との達人戦での加藤一二三九段の反則負けなどを振り返っています。(段位などは当時のもの)勝敗数など記録関連の項目のみ更新されています。

 

ひふみんは、乃木坂46の伊藤かりんとの4枚落ちでの対局も有名です。(伊藤かりんとの対局は、この本には出てきませんが)駒落ちについても、ひふみん独自の考えを披露しています。駒落ちだからと言って露骨に手を抜くのは嫌い。下手が非常に出来が良い時には少しだけ手加減してあげる。しかし、ひふみんの考えは、なかなか理解されないこともあるとのこと。

 

この本の出版社は産経新聞出版産経新聞主催の棋聖戦。その棋聖戦を、名人戦と同時進行は大変だから「棋聖戦で負けて良かった」と悪気なく言ってしまう「ひふみん節」も。

 

テレビでは封印しているキリスト教関連の話も、ちょこちょこ出てきます。

 

ついでにルールに関することを1つだけ。大昔に将棋を覚えた人の中には、千日手は同一手順3回と記憶している人もいるかもしれません。しかし現在のルールでは、同一局面4回で千日手になっています。

 

勉強するつもりで読むと失望するかもしれませんが、ビジネス書みたいに読むなら悪くないと思います。子どもや孫と将棋を指してみたい人向き。

 

ひふみんの将棋入門新装版 [ 加藤一二三 ]

バナナを逆からむいてみたら  アーチャン・ブラーム


 

 

中身を読んで、びっくり。異色の仏教法話集。著者はイギリスのロンドン生まれ。タイで修行してオーストラリアで活動している仏教僧。
原題は「GOOD?BAD?WHO KNOWS?」
「良い?悪い?誰にも分らない」と言った意味でしょうか。

 

翻訳者による説明を読まずに、普通の日本人が読むと、ちょっとスピリチュアル的な自己啓発本と思うかもしれません。最後まで読んでも仏教の話だと気づかないかもしれません。

 

キリスト教を初めとする一神教の価値観に戦いを挑むのではなくて、穏やかに疑問を投げかけるような内容になっています。

 

日本の場合には一神教を信仰している人は多くありませんが、善悪二元論にとらわれて生きづらさを感じている人は少なくないと思います。かと言って、日本の仏教にも馴染みがないとか、日本の仏教に違和感を感じている人向きの内容。

 

 

ものごとには良い面も悪い面もある。良いと思ったことが本当に良いことだとは限らない。悪いと思ったことが、後から良いことだったと分ることもある。

 

全部が良い人も、全部が悪い人もいない。

 

永遠に続くことなど無い。大切なものが離れていく時、大切な人と別れる時はやってくる。そうした別れを理由に不幸になる必要は無い。

 

執着を捨て、物事の多面性に気づき、自分の心や体験を大切にする。
こうした内容が、「バナナを逆からむいてみる」とか「犬のフンを踏んだ時」
「母へのプレゼント」「ヒマラヤ旅行」「ハーレーダビットソン」などのエピソードを交えて語られています。

 

仏教とは切り離して「うつ病認知療法」的な内容として読むことも出来そうです。

 

バナナを逆からむいてみたら [ アーチャン・ブラーム ]

魚住りえ たった1日で声まで良くなる話し方の教科書


 

 

フリーアナウンサー(元日本テレビ魚住りえによる「話し方」講座。「声」は洋服と同じ。話すことはスポーツと同じ。楽器を演奏するように自由自在に声を操るのが目標。

 

まずは腹式呼吸や滑舌(かつぜつ)などの基本的なトレーニング。

 

モノマネ芸人のように、理想とする人(ロールモデル)のモノマネをしてみる。自分の声を録音して、元の音声との違いを修正していく。

 

声の高さ、話すスピードを状況に合わせてコントロールできるようにトレーニング。

 

実際のアナウンサーのような朗読訓練も(黙読、音読、強調したい箇所や抑揚をつけたい箇所のチェック、朗読本番)

 

会話やスピーチへの応用と言った内容です。

 

巻末に小泉純一郎、進次郎親子のスピーチが解説されていて、テクニックを重視する著者の考えが反映されています。

 

魚住アナの考え方は元TBSの吉川美代子アナとは対照的。吉川アナは標準的な日本語(規範的な日本語)には、こだわる一方で、声を作ったりモノマネしたりすることには否定的。その人にとって一番自然な声が大切と言う立場です。どちらが合っているかは、人それぞれかもしれません。英会話の練習にシャドーイングを取り入れるべきかと言う話と少し似ているような気もします。

 

たった1日で声まで良くなる話し方の教科書 [ 魚住りえ ]

 

関連記事

sukinakoto-happy.hatenablog.jp

 

 

sukinakoto-happy.hatenablog.jp

 

 

 

みんなの体をまもる免疫学のはなし 坂野上淳


 

 

免疫学の最近の成果を「対話形式の講義」で説明した本。一見ハードルが高そうなテーマですが、高校で生物を学んだ人なら無理なく読めると思います。

 

この本の主役は食細胞のマクロファージと好中球。タンパク質であるサイトカインやケモカインも頻繁に登場。細胞を生きたまま観察できる最新の顕微鏡や超高性能MRIも活躍(生体イメージング)。基礎研究が多いため実験用のマウスの貢献も大きい。自然免疫と言われるものも実際には複雑な働きをしていることが明らかになっていきます。

 

印象的だったテーマを箇条書きにしてみます。

 

免疫記憶のメカニズム
脳に免疫細胞は入れるの?
虫垂(俗に言う盲腸)の役割
予防接種の添加物と役割
骨粗しょう症と免疫
痛風などのメタボと免疫
がんと免疫

 

この本の裏テーマ?は、大阪大学免疫フロンティアセンターの実績を紹介し、研究資金と優秀な学生を集めるのに役立てること。著者の紹介にも「広報・研究マネージメント担当」と書かれています。(大学関係者からノーベル賞を取りたい、そのためには充分な支援が必要と言う思いも滲み出ています)他大学の研究者には、あまりふれない姿勢は、やりすぎのような気もします。しかし、それも先端研究の現実を反映しているのかもしれません。

 

免疫に興味のある人の知的好奇心を満たしてくれそうな1冊。

 

みんなの体をまもる免疫学のはなし 対話で学ぶ役立つ講義/坂野上淳【2500円以上送料無料】

東大式やさしい物理 三澤信也


 

 

数式を使わず、思考実験と具体例で学ぶ物理読み物。(中学生、高校生向けの授業で使う雑談のネタを多数収録)文庫本なので通勤、通学などの移動時間、病院などの長めの待ち時間に、丁度良い内容。

 

力学は非常に基礎的な分野なので、色々な場面をイメージした思考実験で理解を深めて行きます。「川を流されている時、どちらに泳いでいけばいいか?」、「ボートをこぐ時に正しい方向は?」「二つの鉄球をつないだら、落下速度はどうなるか」など。

 

一方、具定例を示したほうが分かり易い項目は、積極的に具体例を紹介しています。そのうち、いくつかは地球の自転、太陽の磁場、フェーン現象と言った中学、高校の地学に関連する分野。残りの多くは物理を応用した様々なテクノロジーについて紹介しています。(以下、一部の項目を紹介します)

 

自動車のブレーキやシートベルトの仕組み。
潜水艦が潜水したり浮上したりする仕組み。
サウナで火傷しない理由。
味噌汁での火傷が危険な理由。
3D映像の原理。
炊飯器や歩数計(万歩計)にも活用されている磁力。
電磁力を活用したICカード(SUICAなど)やIH調理器。
ラジオ、テレビ、携帯電話、電子レンジに使われる電波、電磁波。
レントゲンやMRIの原理。

 

ちなみにタイトルに東大と入っているのは、「(著者は東京大学を卒業しているので)「東大式」という言葉を入れた方が売れる」という出版社の意向によるものだそうです。このブログでも、「東大」と入っている本のほうがアクセスが多い傾向があるので、出版社の考えも良く分ります。

 

東大式やさしい物理 なぜ赤信号は世界中で「止まれ」なのか? [ 三澤信也 ]

周期表(科学キャラクター図鑑)


 

 

キャラクター図鑑で学ぶ周期表。小学校の高学年から読める易しい説明が特徴。
118元素を収録した改訂版。(ニホニウムなど4元素は正式な命名の前で、ウンウントリウムなどの仮の名前で紹介)電子と言う概念を使用せずに説明しています。
玉川大学出版が翻訳、出版している科学キャラクター図鑑シリーズの1冊)

 

基本的に子ども向けの内容(小学校の高学年から中学生向き)ですが、化学に詳しくない大人が寝転がって眺めてみるのもいいと思います。普段、全く馴染みのない原子番号100以上の元素も、発見(合成)の経緯や名前の由来などが簡単に紹介されていて飽きずに最後まで読めました。1、2時間で周期表の元素を一通り眺めることが出来るのは便利。

 

この本では周期表原子番号順ではなくて、左から縦の列にしたがって見ていきます。そのためニホニウム(本書ではウンウントリウム)は、真ん中辺りに出てきます。左側の1族、2族、右側の16族、17族辺りは反応しやすい元素が多い。普通イメージする金属らしいの多くは遷移金属元素。(この本では12族までを遷移元素に含めています。化学に詳しい人なら、日本の周期表や解説との微妙な違いも面白いかもしれません)

 

子どもでも大人でも周期表が身近になる1冊。

 

周期表完全版増補改訂 ゆかいな元素たち! (科学キャラクター図鑑) [ サイモン・バシャー ]