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漢字大好き少年、漢字ハカセだった著者が、漢字を専門とする研究者になり、本物の博士になって大学教授(早稲田大学)になるまでを振り返った自伝的な1冊。
(漢字に詳しい研究者の多くは、日本語や中国語、言語学、日本語教育などが専門。漢字そのものを専門としている人は非常にまれ)
この場合、ハカセというのは物知りな人、豊富な知識を持っている人を表しています。一方、研究者と言うのは、新しい発見や新しい考え方を追求していくのが仕事。両者の間には、大きな溝、ギャプがあります。
しかし、時に、その溝を軽々と乗り越えてしまうように見える人もいます。
著者(笹原 宏之氏)の場合、当て字や国字(日本で作られた漢字)に関する知識を集めていくと、自然と漢字研究へとつながっていった稀有な例。普通は漢字検定1級を取ろうと、試験勉強が目的になってしまったり、漢字を生み出した中国語という深い迷宮に迷い込んだりしそうです。
笹原氏は、そういう方向に行くのではなくて、日本語と漢字という、今まで、あまり研究されてこなかったテーマに注目します。(笹原氏は早稲田大学の文学部中国文学専攻に進学しますが、大学院に進学する際に、日本文学専修に移ります)そして日本語学の主に語彙(単語)に関する研究が、「日本語における漢字」を研究する時に有力なツール(道具)になることを発見します。笹森氏による方言漢字の研究は、漢字だけに注目していたら気づきにくかったテーマかもしれません。
金八先生が紹介する俗説につっこむなど、漢字に関する雑学的な内容も豊富に盛り込まれています。小泉今日子の愛称、KYON²の右上の小さな2に注目したり、モデルの蛯原友里(エビちゃん)が人気になった時には、蛯という漢字に注目したりと、ミーハーな一面も。しかし、そうした出発点から、研究をまとめ上げる手腕はお見事。
漢字好きの人には親近感がわく部分と、やはり大学教授とは違うと思い知らされる部分が混在している珍しいタイプの本かもしれません。
若い人たちに、「好きなことを見つけて夢中になること」と、「広い視野と柔軟な発想を持つこと」の両方の大切さを伝える1冊。