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健康になりたいという人々の願い付け込んで、人々を騙す医療デマ。医療デマがビジネスに利用されてしまう現状について問題提起しています。
検索エンジングーグルの欠陥を利用した医療情報サイトWELQ
出版不況を理由に質の悪い書物(紙の本)を量産している出版業界
脱法的な広告、マーケティング手法を使う企業
カルト宗教のように常識の通じづらい集団を作ってしまうマルチ商法
偽医学や偽科学の中身を批判した本は、図書館でも見かけますが、この本では、そうした内容には深入りしていません。悪質なビジネスに付け入る隙(すき)を与える社会の側の問題点に焦点を当てています。
大手IT企業ディーエヌエーDeNAが運営していた健康・医療情報サイトWELQ。
このサイトの問題点を、検索サイト「グーグル」の問題点も含めて指摘する告発記事で注目を集めたのが、本書の著者である「朽木 誠一郎(くちきせいいちろう) 」。グーグルが、検索結果の表示に関して、どんな問題を抱えているのかについても、分かりやすく解説されています。
告発記事から1年半が経過した本書の執筆時点(2018年2月)。ある程度自浄作用が働くようになり、行政による直接規制も可能なインターネット業界。一方、全く自浄作用が働かないまま衰退していく出版業界(紙書籍の出版社)と、既存の出版社に厳しい評価を与えています。既存のメディアであってもテレビや大手新聞はチェック機能が働きやすいという点で、一般的な出版物とは異なります。
また大量のテレビCMやネット広告を流していることから、声高には批判しにくい小林製薬のネット広告を批判している点も、本書の特徴と言えるでしょう。
問題のあるビジネスが成立してしまう背景について理解を深めるために役立つ内容だと思います。一方で適切な医療情報の選択、適切な医療の選択に関する部分では、物足りない印象を受けました。
医療情報に関して、因果関係の有無やエビデンスのピラミッド(エビデンスレベル)といった素人には難しい内容にも言及しています。しかし医師などの専門家が頼りにしている(らしい)論文の引用回数とか影響度といった指標についてはふれていません。そのため妙に権威主義的な基準になっているような気がします。また難癖をつけるようで悪いのですが、川嶋朗医師の著書を批判的に紹介している部分。大学教授という普通の人なら気になるであろう肩書に言及していません。話を単純化するために、面倒な部分はスルーしていると悪意を持って解釈することも可能でしょう。
標準治療に関して。
著者は標準治療を推奨する立場。これは当然といえば当然ですが、問題は「普通の医師による標準治療」に不満を持った時に、その病気を専門的に診察、治療している医師(スペシャリストや権威と呼ばれる医師)の判断を仰ぐのではなくて、医療デマに誘惑されてしまうことでしょう。この本では医師による経験やレベルの違いを想定していないので、医師とのコミュニケーションを図って必要に応じてセカンドオピニオンを活用するという理想論に終始しているような気がします。
まとめ
気になる点もありますが、貴重な情報も多く含まれている1冊だと思います。