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自然科学の特徴と限界を一般の人向けに易しく説明した本。恐竜絶滅や進化論を具体例として紹介しながら、難解になりがちなテーマを、簡潔にまとめています。理系研究者が書いた科学論入門。
自然科学の特徴は何か?普通の人の素朴な思考、経済学のような文系の学問との違いは何か?著者によると「説明力より予測力」を重視するのが自然科学の一番の特徴とのこと。普通の人、専門的な研究者ではない大部分の人は、とりあえず納得できる説明があれば満足するのが普通です。しかし自然科学の場合、説明に納得できるだけでは満足せず、理論や説明に予測力があるのかを問題にします。この場合の予測力とは、未来そのものを予測するというよりは、「〇〇ならば△△」というように、〇〇という前提から△△という結論を予測する力を言います(演繹法が可能な理論)。自然科学と言うのは、ここで言う予測力の高い説を取捨選択する営みとも言えます。進化論や恐竜の絶滅に関しても、予測力の高い説を選び、検証して行った結果、現在の説が選ばれたわけです。
このような立場を取ると、ニセ科学とか疑似科学と言うのは「正統な科学」に比べて、予測力が非常に低い理論のことで、それ以上難しく考える必要はなくなります。フロイトの精神分析に関しても、予測力の低い理論は次第に注目されなくなるという文脈で、今となっては理解できます。ただし、一般の人の多くは、予測力よりも説明力を重視しているので、ニセ科学や疑似科学が影響力をもつ可能性もあります。
この本の後半では、科学が間違える時、科学の予測力が大幅に低下するケースについて説明しています。環境問題、抗がん剤の効果、地震予知、原発のリスクと言った「複雑系」では、科学の予測力は大幅に低下します。科学は、こうした分野が苦手ということが周知されていないため、科学に幻想を抱く人も少なくありません。科学に幻想を抱いていた人々が、科学に裏切られたと思い、科学不信に陥る場合もあります。複雑系の問題に関しては、科学は全く無力ではないけれど苦手であるということを、具体例を通して説明しています。
最後の章では、学説の信頼性について、判断する基準、目安を説明しています。
残念ながら大手出版社を含む一般的な出版物やマスコミの記事では、科学的主張の信頼性を確かめるのは難しいとのこと。(大手メディアの中では日本経済新聞は、比較的しっかりしているとのこと)科学的な主張、学説の是非は、科学者同士の検証を経た研究かどうか(後続研究で支持されているかどうか)を見ないと、判断が出来ないものと言う立場です。
全体として、科学者集団への信頼感のようなものを基礎として書かれています。
(民主主義や資本主義市場と同じで)誤りも犯すけれども、誤りを修正するシステムも備えているという立場。
文章も上品で、はてなブログ向きの内容という気もします。