好きなことを知っている人は、しあわせ

好きなことを知れば幸せになれる。好きなことが分からないと幸せになるのは難しい    

養老孟司 解剖学教室へようこそ (ちくまプリマーブックス)

20年以上前に出版された本ですが、図書館の医学コーナーに普通に置かれていました。最近の図書館は、本の入れ替わりが激しく20年以上前の本は少数。その中でも特に医学書は入れ替わりが激しいので、時々古い本が置いてあると目立ちます。図書館にあったのは単行本。現在では、ちくま文庫版が販売されています。

 

著者はバカの壁で有名な養老孟司。出版当時は東大教授。
想定読者は明示されていませんが、おそらく医学部志望の高校生を想定した内容だと思います。

 

基礎医学としての解剖学」がテーマ。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている」などの刑事ドラマに登場する、司法解剖などを扱う法医学がテーマではありません。

 

まずは医学部での実習として行われる解剖について説明。
東大医学部の学生(当時)は二人一組になって実習書に従って2ヶ月近くかけて解剖を行う。(解剖する死体には防腐処置をしてある。)同じ解剖でも、死因を解明するために行われる病理解剖や司法解剖とは別物。

 

解剖実習について説明した後は、次のような内容になっています。
(以下印象的な内容を箇条書き)

 

死体から感じる恐怖(ぶきみさ)について
初めて解剖する人が特に恐怖を感じるのは眼と手(掌)である。
腹にメスを入れる時とは違った恐怖感がある。

 

解剖の歴史
ヨーロッパで解剖が始まったころは、骨の形が注目されて、ヴェサリウスの「人体の構造について」では、骨格が詳細に描かれている。

一方、日本で解剖が始まったのは江戸時代。杉田玄白の解体新書よりも前に、いわゆる「漢方医」の山脇東洋(やまわきとうよう)が行った解剖が最初(合法的に行われたものとしては)。当時の日本では骨格よりも内臓に興味があったので、解剖を腑分けと呼んでいた。

 

重要性を増す細胞学や分子生物学に関するガイダンス、イントロダクション的な内容。
人間の体を細かい部分にわけて理解しようとする場合、昔ながらの解剖のレベルにとどまらず、細胞や分子生物学的なミクロの世界を理解することが大切。この部分は医学部志望の高校生に配慮した教育的な内容と言えるかもしれません。

 

当時の解剖学教室は実習が中心で、講義する内容も研究課題もあまりなく、医学教育以外の役割は求められていなかった時代。そんな時代の雰囲気を味わうのにも良さそう。