好きなことを知っている人は、しあわせ

好きなことを知れば幸せになれる。好きなことが分からないと幸せになるのは難しい    

野蛮なアリスさん  ファン・ジョンウン  斎藤真理子訳


 

 

再開発に翻弄され、心まで荒廃してしまう貧民街の人々。幼少期の貧民街での経験を、成人した女装ホームレスが回想する物語。「野蛮なアリスさん」というタイトルは、不思議の国のアリスから取ったものですが、この小説が残酷な童話のような物語であることを示しています。インパクトの強い表紙は、女装ホームレスを象徴しているようです。

 

訳者あとがきのよると、韓国、金浦空港周辺の再開発をめぐる紛争がモチーフになっているとのこと。日本人からすると、東南アジアや南米、アフリカのスラム街のイメージに近い貧民街。住民たちが自分達の「絶対的な貧しさ」よりも「社会の格差」を意識した時に、人々の心が荒んでいく(すさんでいく)様子が描かれています。バブル景気の全盛期に、日本でも盛んに地上げが行われていましたが、当時の状況と少し似ているのかもしれません。

 

小説なので少しストーリも書いてみます。
主人公のアリシアは貧民街で育った女装ホームレス。彼が少年時代を回想する物語。子どもを虐待する母親、再開発の際に、家と土地を高値で売却したい父親。軽い知的障害のありそうな弟。父親と前妻の間に生まれた異母兄弟。自分も儲けたいと画策する人々。網の目のように絡まった暴力と憎悪の連鎖の日々を回想しています。

 

原文ではキーワードのように繰り返し登場する「ある罵倒語」。それを日本語に、どう訳すのか悩んだというエピソードが、訳者あとがきに紹介されています。日本語訳には、ある放送禁止用語が使われています。こういう翻訳の仕方が正解なのかも個人的には気になるところです。

 

野蛮なアリスさん [ ファン・ジョンウン ]