敬語だけじゃない敬語表現 蒲谷宏
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日本語には狭い意味での敬語(尊敬語、丁寧語、謙譲語)の他にも丁寧さ、「気遣い」や「思いやり」を表す表現があります。
本書で紹介されている例では、「取ってください」より「取ってくれますか?」のほうが丁寧。「取ってくれますか?」よりも「取ってもらえますか?」のほうが丁寧。こうした典型的な敬語とは異なる敬語表現を簡潔に体系化して説明しています。
相手や自分の行動につながる表現の丁寧さは、次の3つの要素が重要としています。
一つ目は誰が行動するのか。「行動」と言う観点。
二つ目は誰が決めるのか。「決定権」と言う観点。
三つ目は誰がありがたいと思うのか。「利益・恩恵」と言う観点。
一つ目の行動と言う観点では相手に行動させるよりも自分が行動するほうが丁寧と考えます。「取ってもらう」のように、○○してもらう、していただくと言う表現は、(本当は相手が行うのですが)、「あたかも自分が行う表現」と見なすことが出来ます。
二つ目の「決定権」では、疑問形になってる表現などは、決定権が相手にあると見なします。
三つ目の「利益・恩恵」と言う観点では、恩着せがましい表現は丁寧ではないと考えます。
いずれも本当の意味ではなくて、言葉の形式に注目することで、「敬語以外の敬語」も簡潔に体系的に整理することが出来ます。
ちなみに議論になることの多い「させてもらう(させていただく)」と言う表現は、相手に決定権がある場合(相手に許可する権限がある場合)でないと違和感を持たれるおそれがあるとしています。
著者は日本語教育の専門家。(早稲田大学大学院日本語教育研究科教授)
この本も日本語の母語話者(普通の日本人)向けと言うよりは、上級レベルの外国人日本語学習者や日本語教師向きの内容かもしれません。