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近藤誠理論を批判した長尾医師の本


 

長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか? 絶対に後悔しないがん治療 [ 長尾和宏 ]

(出版は2015年)

 

がんに関する著作で有名な近藤誠医師に関して、個人的には特に肯定したり否定したりということを考えたことはありませんでした。しかし先日、長尾和宏医師による「その”医者のかかり方”は損です」と言う本を読んで著者に興味もったので、刺激的なタイトルの本書を読んで見ました。

 

この本のテーマは近藤医師の影響で効果的な「がん治療」まで拒否しようとする人に、治療を受けてもらうように説得することです。第一章は「ハーメルンの笛吹き男」のパロディ漫画。(近藤医師を笛吹き男に例える)第二章は、「ガンの手術をためらう架空の女性記者」に対して行う個人講義(詳しい説明と説得)、第3章は、ガンの手術をして良かったと思っている実際の女性患者との対談です。
以上のように、かなり凝った構成で、実際の患者を念頭に置きながら説得を試みています。

 

この本での著者の主張は近藤理論は偽科学、または疑似科学だと言うもの。ただし全く妥当性の無いオカルトやトンデモ学説とは違って、現実の問題に対する正当な批判から出発したものの、科学的に検証できない議論を展開しているタイプの疑似科学です。(本文中には言及されていませんが、この種の理論としてはマルクス主義精神分析が有名。)

 

そして近藤医師が批判する、逸見政孝中村勘三郎などに対する治療、手術について検討しています。

 

また現代日本の出版業界では、出版社の知名度や規模と、内容の信頼性が比例しなくなっている現状も批判しています。(この点は、うすうす感じていても、はっきり言える人は少ないので、とても共感しました)

 

全編、「実際の患者を説得するなら」と言う視点で書かれているので、最後は勢いで押し切るしかないみたいな意地の悪い読み方も出来そうですが。

 

話の本筋とは関係ないのですが、橋下徹を「自分がのしあがるために詭弁を駆使しているように見えてしかたがない」と書いているのは印象的でした。

 

長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか? 絶対に後悔しないがん治療 [ 長尾和宏 ]

灘校・伝説の国語授業 橋本武


 

灘校・伝説の国語授業 本物の思考力が身につくスローリーディング (宝島sugoi文庫) [ 橋本武 ]

 

日本一の名門進学校として名高い灘校、その中学校で行われていた国語の授業の一部を当時、実際に授業を行っていた国語教師、橋本武が再現したもの。


 その内容は「銀の匙」という小説(文庫本)を中学3年間で、ゆっくりと読んで行くというもの。

 

中勘助の「銀の匙」が新聞小説として連載されていたのは明治45年から大正2年。伝説の授業が、このスタイルになったのは終戦直後のこと。開始当初は35年ほど前に書かれた小説を講読していたわけです。現代に置き換えれば、村上春樹とか村上龍の初期作品を、ゆっくり読んで行く感じでしょうか。長すぎず、それほどストーリー性が強くない(途中で脱線しても内容が理解しやすいため)、作品が高い評価を得ている、(プラス、過激な暴力表現や性的な描写が無い)と言う基準で考えれば、中学校の授業で村上春樹の「風の歌を聴け」あたりをじっくり読んでいたら、生徒から非常に好評で東大合格者も鰻登りのため、何十年も続いた授業という感じでしょうか。

 

銀の匙の授業が始まって70年以上が過ぎ、日本語も日本社会も大きく変化しました。今、この小説を読むと国語教育の分類上では現代文でも、古文の知識がないと理解が難しい小説になっています。個人的には、ある程度古文を学んでからテンポ良く読まないと面白さが伝わらない小説と言う気がします。また、寄り道と言いつつ、日本語概説とか古文の解説書に載っているような話をしている授業には私自身は不満を持ちそうです。自分の性格上、こういう先生って欺瞞的な感じがして冷めてしまいます。

 

とは言え、この授業が伝説になったのには、それなりの理由があるとは思います。ドキュメンタリー番組で東大異才発掘プロジェクトと言うのが紹介されていたことがありますが、この授業は灘校異才発掘プロジェクトのような役割を果たしたのではないかと思います。1つのテーマにじっくり取り組み、掘り下げる。ただし一人よがりにならないように、自分が取り組むテーマについて文章にまとめる習慣を身に付ける。(この授業では銀の匙の各章を200字ぴったりに要約する練習を繰り返したとのこと)こうしたことにより、受験だけで燃え尽きない「のびしろ」のある卒業生を多数輩出し、灘校の名声を不動のものにしたのかもしれません。

 

この本自体は読みやすく、中学、高校で国語を学んだ人なら短時間で読めそうです。

 

灘校・伝説の国語授業 本物の思考力が身につくスローリーディング (宝島sugoi文庫) [ 橋本武 ]

 

 

高木仁三郎 元素の小事典

元素の小事典(岩波ジュニア新書)

 

発売日:  1982年06月

著者: 高木仁三郎(たかぎ じんざぶろう)

出版社:  岩波書店

発行形態:  新書

ページ数:  216p

ISBNコード:  9784005000494

(元素の小事典新版は1999年03月発売)

 


図書館の化学の本棚に行くと、必ず何冊かあるのが、水素から順番に元素を解説している本。理化学研究所が合成に成功したニホニウムが注目されたこともあって、新しい本も何冊か出ているようです。

 

元素を順番に解説した本の中で、図書館で見かけたものの中では、最初に出版されたのが高木 仁三郎(たかぎ じんざぶろう)による「元素の小事典」です。初版の発行は1982年(チェルノブイリ原発の事故は1986年)、新版の発行は1999年です。新版ではヨウ素セシウムの項目でチェルノブイリ原発事故にも言及。(余談ですが、地元の図書館では、初版は中高生向けコーナー、新版は一般書のコーナーに置いてありました)


新書サイズの岩波ジュニア新書、見開き2ページに1つの元素という構成。原子の発見や元素の起源と言ったコラムも収録されています。


それぞれの元素の活用例を羅列するだけではなく、電子の軌道とか、原子の崩壊と言った物理化学や原子物理学に関する内容も積極的に取り上げて、易しい表現で説明しています。高校化学の復習と言うよりも、もっと現代的な原子の見方を解説。


この本の、もう一つの特徴は、原子爆弾原発事故、公害、有害な物質の影響で死亡した科学者と、科学の負の部分や危険性にも積極的に言及していること。現在ではスーパーカミオカンデで有名な神岡鉱山は、カドミウムによるイタイイタイ病を引き起こしたと言った具体的な出来事にも言及しています。


最近では類似の内容で、カラー写真を豊富に使ったもの、詳しいデータを掲載したもの、とにかく分りやすさを追求したものと色々な「元素紹介本」が出ています。

 

しかし、自然の驚異を忘れずに人間の驕りを戒めたいと思う人々に、この本は支持され続けるのではないかと思います。

腸内細菌が家出する日 藤田 紘一郎

 

 

腸内細菌が家出する日 健康も人生も思いどおりにいかないのはナゼ?
藤田 紘一郎

発売日: 2016年07月21日頃
著者/編集: 藤田 紘一郎
出版社: 三五館
発行形態: 単行本
ページ数: 186P
ISBNコード: 9784883206728

 

寄生虫の研究で有名な著者。自分自身のお腹の中にサナダムシを飼っていたエピソードでも有名な先生です。大学を退官後も、生物や医学に関するエッセイを精力的に執筆しています。

 

 この本のテーマは生き物と生き物の共生。(一方的に寄生しているような生き物も含まれますが、その場合でも、環境全体で見れば上手く行っているので、寄生する、寄生されるという関係が続いていると著者は考えています)

 

著者が大学院の学生時代に研究していたのはトキソプラズマと言う単細胞の寄生虫(原虫)。名前に虫が入っていますが、白血球よりも小さい微生物です。このトキソプラズマを例にして、寄生生物の興味深い性質を説明しています。寄生生物は、ずっと同じ種類の生き物にいるわけではなく、トキソプラズマの場合は、猫、猫のフン、ねずみを経て、また猫に戻っていきます。(人に感染することもあります)

 

次に、蟻や蚊、カタツムリ、ゴキブリ、カニなど様々な生き物に寄生する寄生生物が紹介されています。寄生生物が寄生先の生き物である宿主をコントロールしているようなケースも数多くあります。 

 

そして後半部分は、注目度の高い腸内細菌とヒトの健康について。免疫やアレルギーの話も腸内細菌の話と関連付けて考えると、「異物を排除して外敵から体を守る」と言う単純な話ではないという気がしてきます。例えば、赤ちゃんの腸内では、全ての菌を排除してしまうのではなくて、腸内細菌の選別が行われるとのこと。さらに人間の場合でも腸内細菌が肥満の原因になったり、脳に影響を与えたりする可能性を指摘しています。

 

現代人は、快適な生活と目先の利益ばかり追い求め、人間とって必要不可欠な腸内細菌が家出してしまうような事態を招いていると警告しています。

 

余談ですが、この本を読んでいて今年夏のヒアリ騒動を思い出しました。ヒアリが怖いからと普通のアリまで駆除してしまうと、ヒアリの繁殖が早まるので行わないようにと警告されていました。生き物同士の関係を理解することは大切だなと再確認。

 

 

 

 

 

 

死なないやつら 長沼毅


 

死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」 (ブルーバックス) [ 長沼毅 ]

 

この本の著者は不名誉なことでニュースになってしまいましたが、そのことは知らずに、たまたま図書館で見かけて借りてきました。

 

前半は、タイトルの通り、高温でも深海でも酸素が無くても死なない極限環境に生きる微生物の話。世界中を飛び回り、南極や深海でも調査を行い、「日本のインディジョーンズ」とも呼ばれた著者自身の経験や発見を振り返りながら、驚異の微生物達を紹介していきます。

 

後半は極限生物の話をふまえながら、生物の進化、生物の起源、さらには「生物とは何か?」と言う問いを考えて行きます。進化に関しては、ダーウィンの進化論に遺伝子の要素を取り入れたネオ・ダーウィニズムの考え方を紹介しています。ペンギンやキリンの長い首、亀の甲羅と言った馴染み深い例を使って、「用不用説」のような素朴で現在では否定されている考え方と現代の進化論の違いを理解していきます。また極限環境の生物に関する話を読んだ後だと、進化が、いかに偶然に左右されるのかが自然と理解できるようになっています。さらに微生物を含む生き物同士の共生、寄生、一体化が生き物の進化に大きな影響を与えてきたことも具体例をあげて説明されています。また現存する生命の系統は1つしかないこと、現存する人類の系統も1つしかないことが紹介されています。
 
 そしてシュレーディンガーの「生命とは、負のエントロピーを食う」という考えを考察しながら、「生命とは何か」について考えています。

 

本書の最後を飾るのは生物の起源に関する考察。著者の長沼毅は、現在、有力視されている熱水噴出孔起源説に疑問を持ち、地球上の生命は彗星由来かもしれないと考えています。

 

個人的には所々に出てくる脱線気味の話も面白かったです。

 

生物に関する予備知識が全くない人には少し難しそうです。逆に、生物学に詳しい人にとっては、もっと厳密な説明をしている本を読めばよいのかもしれません。
しかし、高校で生物をやるにはやったものの、うろ覚えの自分にとっては、テンポ良く読めて分りやすく興味深い内容でした。

死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」 (ブルーバックス) [ 長沼毅 ]

 

 

世界一やさしい精神科の本 斎藤環 山登敬之


 

世界一やさしい精神科の本 (河出文庫) [ 斎藤環 山登敬之 ]

 

タイトルに偽りなし、易しい会話体で書かれた14歳からの精神医学入門。

 

著者の斎藤環(さいとうたまき)は、ひきこもりの治療やオープンダイアローグの紹介で有名な精神科医斎藤環の書いた他の本より、本書は、ずっと読みやすくなっています。もう一人の著者、山登敬之(やまとひろゆき)も精神科医です。

 

発達障害や引きこもり、摂食障害うつ病統合失調症など、中高生にも身近な9つのテーマを選んで解説しています。(精神医学に、あまり詳しくない中学、高校の先生にも参考になるかもしれません)

 

脳の問題よりも、青少年の心理や人間関係の悩みに重点を置いた「文系的な精神医学」

 

精神科関連の本は、細かい内容にはコメントしづらいので、興味のある方は実際の内容をご覧下さい。

睡眠ダイエットの本が微妙な内容

肥満外来の女医が教える 熟睡して痩せる 「3・3・7」睡眠ダイエット (SB新書)
左藤桂子

 

図書館で偶然見かけた睡眠ダイエットの本を借りて来ました。


著者は女医、内科医で肥満外来が専門の左藤桂子先生。


3時間は熟睡する、仕事などが忙しくても午前3時には眠る、一日7時間睡眠を目標に。これが出来るだけでも睡眠の質が改善し、健康的にダイエットが出来るというのが「3・3・7」睡眠ダイエットです。本書で、こだわっているのは、体重を減らすことではなく、いかに良い睡眠を取るかと言うこと。朝は目覚まし時計の音ではなくて太陽の光で目覚める。夕食は早めに取る。効果的な入浴法など。こうした内容は、どれだけ痩せるかは別として、実行できれば健康にプラスになると思います。

 

しかし浄水器や空気清浄機、サプリメントにこだわっているのには、個人的には付いて行けないと思いました。

 

また耳鼻科領域のため専門外なのかもしれませんが、睡眠時無呼吸症には全く言及されていません。そのため太りすぎて、大きなイビキをかいたり、呼吸が止まったりする人の睡眠は、この本だけでは改善されないかもしれません。

 

この先生(女医さん)が主なターゲットとしているのは、メタボ検診の結果、嫌々訪れるような人ではなく、ダイエットにはお金を惜しまない人たち。忙しい仕事とダイエットが両立できるなら10万円程度の投資は安いものと思えるような人たちです。それは別に悪いことではないのですが、図書館で、たまたま見かけて借りてきた本だったので、少し驚きました。